A適切な社会保険への加入(健康保険・厚生年金保険・雇用保険)
【目次】
建設業許可申請における「適切な経営体制」の要件は、建設業法施行規則第7条において、
「1号:経営管理能力」と「2号:適切な社会保険の加入」の二段構えで規定されています。
本記事では、実務上「経営体制の両輪」の一翼を担う「適切な社会保険への加入」について、令和7年(2025年)12月12日施行の改正法下における基準を詳説します。
かつて社会保険への加入は行政指導の対象に留まっていましたが、令和2年の法改正により、未加入の状態では許可そのものが受けられない「拒否事由(必須要件)」へと格上げされました。
制度の目的と根拠条文
この要件の狙いは、技能者の処遇改善と法定福利費を適切に負担する公平な競争環境を確保することにあります。
根拠条文は建設業法施行規則第7条第2号です。
対象となる保険は、以下の3つの保険について、法令上の加入義務がある場合に、適切に加入していることが求められます。
イ. 健康保険
ロ. 厚生年金保険
ハ. 雇用保険
「加入義務」の範囲:法人と個人の決定的な判断基準
行政書士が実務で最初に確認すべきは、クライアントが「法令上の加入義務がある事業所かどうか」という点です。
法人の場合:
健康保険・厚生年金保険は強制適用となり、役員1名のみでも加入必須です。
雇用保険も強制適用となり、従業員を1名でも雇えば加入が必要です。
個人事業主の場合:
健康保険・厚生年金保険は、従業員が5人以上で強制加入となります。
雇用保険は強制適用となり、従業員を1名でも雇えば加入が必要です。
適用の例外(適用除外)
従業員5人未満の個人事業主などは、法令上の加入義務がない「適用除外」として認められます。
実務上の留意点
令和7年現在、建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及により、たとえ法律上の加入義務がなくても、元請企業から「保険未加入者は現場に入れない」と取引条件を提示されるケースが常態化しています。
実務の急所:社会保険が「ケイカン・センギ」の立証を支える
ここが新人行政書士にとって最も重要な実務のリンクです。
社会保険の加入状況を確認する書類は、単に「保険に入っているか」を見るだけのものではありません。
常勤性の証明
「経営業務の管理責任者(ケイカン)」や「専任技術者(センギ)」がその会社で本当に常勤しているかを証明するために、行政庁は「健康保険被保険者証(事業所名が入ったもの)」や「標準報酬月額決定通知書」の提示を求めます。
不一致のリスク
社会保険の標準報酬が極端に低い場合や、役員が被保険者として登録されていない場合、ケイカンの「常勤性」を疑われ、許可申請がストップする原因となります。
確認書類(エビデンス)の収集とチェックポイント
申請時には、以下の資料(原本提示または写し提出)によって適正な加入を証明します。
1. 健康保険・厚生年金
領収証書(直近のもの)、または社会保険料納入確認書。
標準報酬月額決定通知書。
2. 雇用保険
労働保険概算・確定保険料申告書の控え、および領収証書。
【プロの視点】
納付期限の確認
申請直前に未納がある場合は、至急納付を促し、領収証書を確保する必要があります。
個人事業の「4人以下」証明
所得税の源泉徴収簿や賃金台帳を確認し、従業員数が適用除外の範囲内であることを論理的に説明できるようにしておきます。
令和7年現在の環境:コンプライアンス管理の深化
2025年(令和7年)12月現在、行政のデジタル化により、社会保険の加入状況と建設業許可データはより密接に連携しています。
未加入状態での更新申請は、令和7年改正法下の厳格な運用により、即座に不許可や指導の対象となるリスクが高まっています。
新人行政書士の先生は、単に「許可要件だから入ってください」と伝えるだけでなく、「適切な社会保険への加入は、健全な経営体制の土台であり、人材確保と現場入場を可能にするための投資である」というコンサルティング視点を持って、クライアントを指導してください。
まとめ
- 適切な社会保険への加入は、令和2年の法改正により建設業許可の必須要件となりました。
- 法人は役員1名でも健康保険・厚生年金への加入が必須、個人事業主は従業員5人以上で強制適用となります。
- 社会保険の加入証明書類は、ケイカン・センギの常勤性を立証する重要なエビデンスとしても機能します。
- 令和7年改正法下では、未加入状態での更新は即座に不許可となるため、早期の対応が不可欠です。
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