建設業許可の該当性判断(許可の種類)
【目次】
建設業許可の申請実務において、業種(29業種)が決まった次に新人行政書士が取り組むべきは、「どの種類の許可を申請するか」という該当性判断です。
建設業許可は一つの大きな塊ではなく、事業の形態や規模に応じて複数の区分に分かれています。
この判断を誤ると、クライアントの事業計画に支障をきたしたり、要件を満たせない区分で無理な申請をして不許可になったりするリスクがあります。
本稿では、令和7年12月12日施行の改正法を踏まえ、許可の種類を決定するための論理的フレームワークを解説します。
許可の「二次元マトリックス」を理解する
建設業許可の種類は、大きく分けて「管轄による区分」と「受注規模による区分」の2つの軸で構成されています。
これを組み合わせることで、事業者がどの「土俵」で営業すべきかが決まります。
@ 管轄による区分(横の軸)
・大臣許可:二以上の都道府県に営業所を設ける場合
・知事許可:一つの都道府県内のみに営業所を設ける場合
A 受注規模による区分(縦の軸)
・一般建設業許可:下請契約の金額が一定未満、または下請に出さない場合
・特定建設業許可:元請として受注し、一定額以上の下請契約を締結する場合
管轄区分(大臣・知事)の判断基準
新人行政書士が最初に行うべきは、クライアントの「営業所」の配置確認です。
ここでいう営業所とは、単なる作業員詰所ではなく、常時建設工事の請負契約を締結する実態のある事務所を指します。
(1)知事許可のケース
例えば、東京都内に本店があり、同じく東京都内にのみ支店がある場合は、支店の数に関わらず「東京都知事許可」となります。
(2)大臣許可のケース
本店が東京都にあり、神奈川県に契約締結権限を持つ支店を一つでも置く場合は「国土交通大臣許可」が必要です。
実務上の重要インサイト
よくある誤解として「隣の県で工事をするから大臣許可が必要」というものがありますが、これは誤りです。
営業所の所在地と施工現場の場所は無関係であり、知事許可であっても全国どこでも施工自体は可能です。
大臣許可への切り替えは、あくまで「他県に営業拠点を設けるかどうか」で判断します。
受注規模区分(一般・特定)と令和7年改正の影響
ここが実務上、最も慎重な判断を要するポイントです。
区分は「元請として受注した1件の工事につき、いくら下請に出すか」で決まります。
令和7年12月12日の改正により、インフレの影響を反映して金額基準が以下のように引き上げられました。
(1)建築一式工事
改正後(令和7年12月12日以降)の特定許可が必要な金額:8,000万円以上(税込)
備考:マンション大規模修繕等に影響
(2)その他の工事
改正後(令和7年12月12日以降)の特定許可が必要な金額:5,000万円以上(税込)
備考:設備・土木工事等のインフレ調整
・一般建設業:上記金額「未満」の下請契約で施工する場合
・特定建設業:上記金額「以上」の下請契約を締結して施工する場合
戦略的アドバイス
改正により一般建設業の守備範囲が広がったため、これまで「4,600万円の下請発注をするから特定が必要」だった案件が、5,000万円未満であれば一般許可で対応可能になりました。
特定許可は非常に厳しい財産要件(自己資本4,000万円以上など)が課されるため、クライアントの財務状況と受注予定額を照らし合わせ、あえて「一般」を選択するのも一つの戦略です。
許可は「業種ごと」に独立している
もう一点、新人が見落としがちなのが、「一般」と「特定」は業種ごとに混在できるという点です。
例えば、「塗装工事業」は元請として大規模に下請へ出すので「特定」
一方で「防水工事業」は自社施工がメインなので「一般」
このように、一企業の中で業種ごとに異なる区分を持つことが可能です。
ただし、同一業種について「一般」と「特定」を同時に持つことはできません。
行政書士としてのヒアリングの極意
該当性を正しく判断するために、クライアントには以下の3項目を深くヒアリングしてください。
1. 営業所の実態
契約締結権限を持つ拠点が複数の都道府県にまたがっていないか
2. 元請工事の比率と下請発注額
1件の元請工事で、下請に投げる金額が新基準(5,000万円/8,000万円)を超える可能性があるか
3. 財務体質の確認
特定許可の厳格な財務基準(資本金2,000万円以上、自己資本4,000万円以上等)をクリアできる見込みがあるか
新人行政書士は、単に「どちらにしますか?」と聞くのではなく、改正法の数字を提示しながら「御社の財務状況と今後の受注戦略に最適なのはこちらです」と論理的に導くことが求められます。
まとめ
建設業許可の種類は「管轄による区分」と「受注規模による区分」の2つの軸で決定されます。
令和7年12月12日施行の改正により、特定許可が必要な金額基準が引き上げられ、一般建設業の活用範囲が広がりました。
営業所の配置、元請工事の下請発注額、財務状況の3点を丁寧にヒアリングし、クライアントに最適な許可区分を提案することが行政書士の役割です。
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