「法人の許可」と「個人の許可」:主体別の留意点と実務の急所

「法人の許可」と「個人の許可」:主体別の留意点と実務の急所

 

 

 

建設業許可を申請する際、申請主体を「法人(株式会社や合同会社など)」にするか「個人事業主」にするかは、クライアントの経営戦略における極めて重要な分岐点です。

 

新人行政書士は、単に現在の経営形態に合わせて書類を作成するだけでなく、将来の「法人成り」や「事業承継」までを見据えた長期的視点での助言が求められます。

 

本稿では、令和7年(2025年)12月12日施行の改正法の内容を踏まえ、法人と個人の許可における実務上の決定的差異と、行政書士がコンサルティングで踏み込むべきポイントを、2025年現在の最新情報を基に詳説します。

 

 

許可の帰属性と「主体」の重要性

 

 

建設業許可は、申請した「主体(人または会社)」に対して与えられるライセンスです。

 

法人許可の場合、「法人格(会社)」そのものが許可を取得します。

 

代表取締役や役員が交代したとしても、会社という主体が存続し、後任の役員等が経営業務管理能力などの要件を満たし続けている限り、許可は有効に継続します。

 

一方、個人許可の場合、「事業主本人(自然人)」が許可を取得します。

 

許可は一代限りであり、原則として他人に譲渡したり、事業主の死亡時に当然に相続させたりすることはできません。

 

新人行政書士は、個人事業主が「近いうちに法人化したい」と考えている場合、個人で許可を取った直後に法人化すると、再度「新規(法人成り)」での申請と手数料(知事許可なら9万円等)が発生することを事前に説明し、最適な申請タイミングを提案しなければなりません。

 

 

経営管理能力(常勤役員等)の立証差異

 

 

建設業許可の要件である「経営業務の管理能力」の証明において、法人と個人では対象となる人物の範囲が異なります。

 

法人の場合、「常勤役員等(原則として取締役)」の経営経験が審査の中核となります。

 

組織としての経営管理能力を問う形式となっており、取締役会の決議を経て業務を執行する地位(執行役員等)での経験や、これらを補佐するチーム体制での申請も検討可能です。

 

個人の場合、原則として「事業主本人」の経験が対象です。

 

支配人を登記している場合はその経験も考慮されますが、基本的には事業主個人のキャリアが審査の対象となります。

 

令和7年の現在、M&Aや経営体制の変更に伴う「常勤役員等+直接補佐者ルート」の活用が増えていますが、これは組織図や常勤性の証明が非常に厳格であり、法人格を持つ組織ならではの複雑な実務対応が必要となります。

 

 

社会保険加入義務の範囲と2025年現在の実務

 

 

令和2年の法改正により、社会保険への加入は許可の必須要件となりました。

 

ただし、法人と個人では法令上の加入義務範囲が異なります。

 

法人の場合、役員1名のみの会社であっても、法令上は全ての事業所が強制適用となります。

 

健康保険、厚生年金保険、および雇用保険(従業員がいる場合)への加入が絶対条件です。

 

個人の場合、従業員が5人未満であれば、法令上、健康保険や厚生年金への加入義務がない「適用除外」として認められる場合があります。

 

実務上の重要ポイント

 

建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及により、現場入場時に社会保険加入状況が厳しくチェックされるようになっています。
たとえ「5人未満の個人事業主」で免除されていたとしても、元請企業から加入を強く求められるケースが常態化しており、行政書士は「法律上の免除」と「現場の実態」の両面からクライアントを指導する必要があります。

 

 

財産的基礎と特定建設業許可のハードル

 

 

一般建設業許可であれば、法人・個人ともに「500万円の自己資本または資金調達能力」で共通していますが、特定建設業許可を目指す場合は法人格の有無が大きな壁となります。

 

【特定建設業許可の財産的要件比較】

 

資本金の額
・法人の特定許可:2,000万円以上
・個人の特定許可:制度上「資本金」の概念がない

 

自己資本の額
・法人・個人ともに:4,000万円以上

 

流動比率
・法人・個人ともに:75%以上

 

欠損比率
・法人のみ:20%以下
・個人:適用なし

 

 

特に「資本金2,000万円以上」という要件は、商業登記簿上の数値を指すため、個人事業主が特定許可を取得・維持することは、実務上極めて困難です。

 

令和7年12月12日の改正により、特定許可が必要な下請代金の基準額が引き上げられましたが(建築一式8,000万円、その他5,000万円)、依然として大規模工事の元請を目指すなら、法人化は避けて通れない道です。

 

 

行政書士としての戦略的コンサルティング

 

 

新人行政書士の先生は、以下の視点でクライアントを導いてください。

 

法人成りの適切な提案

 

個人で許可を取得した直後に法人化すると、許可は引き継げず「新規」申請となります。

 

年商や節税メリットを考慮し、先に法人化を済ませてから許可申請を行うべきか、慎重なスケジュール管理をサポートしてください。

 

 

定款の目的欄の確認

 

法人の場合、定款の事業目的に「建設業」や、具体的な業種名が入っている必要があります。

 

申請直前に不足が判明し、目的変更登記で時間をロスしないよう、最初期に原本を確認することが不可欠です。

 

 

欠格要件の広がり

 

法人の場合、役員個人の不祥事(刑罰等)が会社全体の許可取り消しに直結します。

 

役員の中に欠格要件に該当する人物が一人でもいないか、プライバシーに配慮しつつも厳格にヒアリングを行うことが、プロとしてのリスク管理です。

 

 

まとめ

 

 

法人許可と個人許可では、許可の帰属性、経営管理能力の証明対象、社会保険加入義務の範囲、財産的基礎要件が大きく異なります。

 

特に法人成りを検討しているクライアントには、許可取得のタイミングと法人化のスケジュールを最適化する戦略的助言が不可欠です。

 

令和7年のインフレ時代において、建設業許可は企業の信用力そのものであり、法人の組織力を活かすのか、個人の機動力を守るのか、クライアントの5年後、10年後のビジョンに最も合致する主体選択を導き出すことが、行政書士の介在価値となります。

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