C請負契約に関して誠実性があること:コンプライアンスの門番

C請負契約に関して誠実性があること:コンプライアンスの門番

 

 

 

建設業許可の「六大要件」の中で、最も抽象的でありながら、実務上「企業の品格」を問われるのがこの「誠実性」の要件です。

 

多くの申請書類では自己申告のチェックボックス一つで済んでしまうため、新人行政書士は「単なる形式的なもの」と見過ごしがちですが、それは大きな間違いです。

 

本記事では、令和7年(2025年)12月12日施行の改正法下における「誠実性」の法的深掘りと、実務において行政書士が「地雷」を回避するための具体的なヒアリング手法を解説します。

 

 

誠実性要件の法的本質と根拠

 

 

誠実性とは、請負契約の締結や履行に際し、「詐欺、脅迫、横領などの不法行為」「契約違反などの不誠実な行為」を行う恐れがないことを指します。

 

これは、建設工事が公共性が高く、かつ発注者や下請負人への影響が甚大であるため、不適格な者を市場から排除するための「予防的要件」です。

 

 

一般建設業許可の根拠:建設業法 第7条 第3号
特定建設業許可の根拠:建設業法 第15条 第1号

 

 

この要件の最大の特徴は、後述する「欠格要件(法第8条)」が「過去の事実」に基づいて一律に判断されるのに対し、誠実性は「将来において不正を行う恐れがあるか」という動的な観点から審査される点にあります。

 

 

請負契約に関する「誠実性」の意味と対象者

 

 

「誠実性」の意味

 

 

「誠実性」とは簡略化した言い方で、条文上の正確な表現は
「不正又は不誠実な行為をするおそれが明らかな者でないこと」(建設業法第7条第3号)です。

 

 

では、条文を見てみましょう。

 

(許可の基準)
第七条 国土交通大臣又は都道府県知事は、許可を受けようとする者が次に掲げる基準に適合していると認めるときでなければ、許可をしてはならない。
一 (省略)
二 (省略)
三 法人である場合においては当該法人又はその役員等若しくは政令で定める使用人が、個人である場合においてはその者又は政令で定める使用人が、請負契約に関して不正又は不誠実な行為をするおそれが明らかな者でないこと。

 

解説しましょう。

 

 

不正な行為」とは、
請負契約の締結、履行の際に詐欺、脅迫、横領など法律に違反する行為をいいます。

 

不誠実な行為」とは、
工事内容、工期、天災等不可抗力による損害の負担等について請負契約に違反する行為を
いいます。

 

*「建設業許可事務ガイドライン【7条関係】3」で定義づけされています

 

 

そして、請負契約に関してこういった行為をするおそれが明らかでないことを、
一言で「誠実性」と言います(略称ですよ)。

 

 

ところで、「おそれが明らかな者でない」という基準はちょっと抽象的すぎますよね?
判断が難しいと思われるかもしれません。

 

でも、はっきり言えば、
この「誠実性」の要件の審査は厳しくないです。

 

具体的に言うと、
建設業法、建築士法、宅地建物取引業法等で「不正」又は「不誠実な行為」を行ったことにより
免許等の取消処分を受けて5年を経過していない者などは、
誠実性がない者として許可を受けられません。

 

しかし、そういった事情がなければ、普通は認められます。
大抵の場合は、大丈夫です。
とはいえ、甘く見ないできちんヒアリングしてくださいね。

 

建設業許可事務ガイドライン【7条関係】3(2)(3)」をよく読んでおいてください。

 

 

 

誠実性が必要とされる対象者

 

 

「誠実性」は以下の者に認められることが必要です。

 

個人」の場合→その者又は政令で定める使用人

 

法人」の場合→当該法人又はその役員もしくは政令で定める使用人

 

 

誠実性が問われるのは、会社の代表者だけではありません。
経営を実質的に支配している、あるいは営業の最前線で権限を持つ以下の全員が対象となります。

 

 

1 法人そのもの(企業としての信義)

 

2 すべての役員等:取締役、相談役、顧問、株主(議決権5%以上)など、経営に実質的な影響力を有する者

 

3 建設業法施行令第3条の使用人:支店長や営業所長など、契約締結の権限を委譲されている責任者

 

このような立場にいる人間が不誠実だと建設業法の目的である発注者保護が実現できないので許可は与えない、という趣旨です。

 

 

なお、「政令で定める使用人」とは、建設業法施行令第3条に規定する使用人のことです。

 

すなわち、支店や支店に準ずる営業所の代表者のことで、具体的には支店長、営業所長がこれにあたります。つまり、本社の社長がどれほどクリーンでも、地方の支店長に過去の不正があれば、会社全体の許可が危うくなります。

 

個人の場合は、支配人登記をした支配人も含まれます。

 

 

行政処分歴が「誠実性」に及ぼす影響

 

 

実務上、最も注意が必要なのが、過去の「行政処分」です。

 

指示処分・営業停止処分(法第28条):過去にこれらの処分を受けたことがある場合、処分期間が終了していても、再発防止策が不十分であったり、改善の跡が見られなかったりすると「誠実性に欠ける」とみなされることがあります。

 

他法令の違反:建築基準法、労働基準法(賃金未払い等)、廃棄物処理法などの関連法規で繰り返し指導・処分を受けている場合も、経営体制の誠実性が厳しく問われます。

 

 

行政書士としてのプロのコンサルティング手法

 

 

新人行政書士の先生は、申請書の「誠実性に関する申立書」を作成する際、以下の3段階のチェックを行ってください。

 

 

ステップ1:役員の「他社での過去」を洗う

 

 

「新しく迎えた役員が、以前勤めていた会社で建設業法違反の責任者だった」というケースは現実に起こり得ます。

 

役員就任時の「賞罰」だけでなく、過去に管理職として在籍した企業の行政処分歴をヒアリングすることが、不許可リスクを最小化します。

 

 

ステップ2:契約トラブルの有無を可視化する

 

 

「現在、裁判中の案件はありますか?」という質問は非常に重要です。

 

単なる民事訴訟であれば即失格とはなりませんが、その内容が「詐欺的な勧誘」であった場合、行政庁から誠実性について詳細な説明を求められる(補正指導)可能性があります。

 

 

ステップ3:暴力団排除(暴排)条項の確認

 

 

自治体によっては、警察本部への照会が行われます。

 

クライアントに対し、役員やその家族、さらには主要な株主の中に反社会的勢力との関わりがないか、コンプライアンスの観点から毅然と確認を行ってください。

 

 

誠実性と次条「欠格要件」の使い分け

 

 

誠実性は、いわば「グレーゾーン」の判定です。

 

一方、次条で解説する「欠格要件」は「白か黒か」の判定です。

 

行政書士としては、まず次条の欠格要件(形式的判断)で足切りを行い、その上で誠実性(実質的判断)によって、クライアントが真に「金看板」を背負うにふさわしい信頼性を備えているかをプロデュースする役割があります。

 

 

まとめ

 

 

誠実性は形式的なチェック項目ではなく、企業の品格を問う実質的要件である。

 

役員の他社での過去、現在の契約トラブル、反社会的勢力との関わりを徹底的にヒアリングすることが不許可リスクを回避する鍵となる。

 

行政書士は欠格要件と誠実性の二段階審査を通じて、クライアントが建設業許可にふさわしい信頼性を備えているかを戦略的に評価・プロデュースする専門家である。

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